知的生産のDIYストア=図書館を楽しもう!

 

玉井 秀樹(平和問題研究所・助教授)

 

  今年もまた桜花爛漫の創価大学の新学年が始まります。35期生の皆さんへの歓迎の挨拶代わりに、また、新たな決意で新学年を迎えた先輩諸氏にも多少の参考になればと思い、私の拙い図書館体験を述べさせていただきたいと思います。

 

  私はDIYストアあるいは東急ハンズのような「道具屋」をひやかして歩くのが結構好きで、「あったらいいな」と思っていたものを見つけたり、初めて見る道具があったり、きれいな材料があったりと、なかなか愉しいものです。図書館で過ごす時間には、そのような「創る道具と材料」を手に入れる高揚感があるように思うのです。

 

  学生の皆さんにとって大学は教育を受けるところなのですが、その一方、知的生産活動(=研究活動)の場としての大学は、皆さんにも、大学を構成する一員として、卒業までの間に何らかの知的生産をすることを期待しています。先人がこれまで蓄積してきた膨大な「知」の山の上に、たとえ一粒の小石ほどでも何か新しい知見を積み上げていく。これが大学における生産活動です。大学を卒業すると学士という学位が与えられますが、それは知的生産者としての初級免許といえるかもしれません。

 

  私のDIY的図書館の楽しみ方体験はといいますと、現役学生の頃は、書架に整然と並ぶ書籍の背を見て、「こんな本があったのか」と自分にとっての「新しい知」を知る楽しみがありました。そのうち、図書館だけでは物足りなさを感じて、都内の大型書店の新刊コーナーなどに通うようになりましたが、現在は新入荷図書の陳列が充実していますし、WEBでかなり詳細な新刊情報をみることもできるので、はるかに知的刺激を受けやすい環境になっていると思います。

 

  皆さんにも新しいものを中心に数多くの書籍にふれること、まずはタイトルと目次を見てみることをお薦めします。何を面白いと感じるかは個人差が大きいと思いますが、幅広く知的興味を満足させるためには新書サイズのものが適当なのではないかと思います。

 

  私の場合、1年生の時、ある授業が期待していた内容とは異なり、その科目への知的関心を失い欠けたことがありました。その時に手に取った新書(山口昌男『文化人類学への招待』(岩波新書 黄版 204))の面白さが、私の関心を引き留めてくれた経験があります。また、2年生の時には先輩から紹介された経済学者の書いたマックス・ヴェーバー論(大塚久雄『社会科学における人間』(岩波新書 黄版 11)同『社会科学の方法ヴェーバーとマルクス』(岩波新書青版))を読んで、社会科学の有用性・面白さに目覚めたということもありました。

 

  3年生になるとゼミナールの報告準備でいよいよ図書館を活用することになります。ゼミナールの討論で話題になった雑誌論文を見つけたり、発表の裏付けを取るために参考文献が使用している書籍や論文(原典)を直接確認したりという作業は、本の探偵になったような高揚感がありました。ヨハン・ガルトゥングが「構造的暴力」を展開した論文が掲載されている平和研究誌Journal of Peace Researchを図書館で見つけた時の興奮は忘れられません。(もっとも論文の方は英語で読解にたいへんな苦労をしたのですが)

 

  このようにゼミナールでの発表、そして、卒業論文と「つくる」作業にかかわるようになると、図書館はDIY(Do It Yourself!)ストアとしての真価をさらに発揮するようになります。また、さらにいいものをつくろうとすると、そのうち創価大学の「品揃え」に物足りなくなり、学外の研究所のライブラリーや国会図書館に足を運ぶというように複数の「お店」を回るようになるでしょう。私はそうでした。ただし、現在はインターネットによって、こうした学外情報もふくめて、図書館にいながら調査できるようになっており、さらに使い勝手が向上しています。

 

  我々は、図書館で人類が創造してきた様々な知の道具を知り、使用するという「知の消費」の愉しみを得ることができます。図書館はまた、「知の消費」すなわち「学ぶ」ことを通じて知的生産をする喜びも与えてくれるところです。今年もまた、この知のバラエティショップを大いに活用し、愉しんでいただければと思います。